去年に引き続き「一般講演」をする機会をいただきました。
一般講演というのは、臨床研究でわかったことや珍しい病気について、参加している獣医師の前で10分ほど発表し、その後質疑応答に応えていく、という形のものです。授業のような形で行ういわゆる「講演」とは少し違っていて、どちらかというと新しい情報を提供していきながら、他の獣医師とディスカッションするのが目的となります。
今回の発表タイトルは
「外耳炎におけるイズオティック®の臨床的有効性の検討」
というものです。なんとなく内容がわかるでしょうか?
ちなみに「〇〇の検討」とか「〇〇に関する考察」とか「〇〇の一例」とかは学会発表でよくあるタイトルです。日常生活ではまず口にしないですけど、学会あるあるですね。
簡単に発表内容を紹介していきましょう。
まず「外耳炎」ですが、読んで字の如く、耳に炎症が起こる病気です。「外耳」というのは、耳の入口から鼓膜までのことを言います。
動物病院に来る犬の病気を調べてみると、外耳炎は約14%と実に多くみられる病気です。みなさんのおうちのワンちゃんも一度は経験したことがあるかもしれませんね。原因は犬アトピー性皮膚炎やマラセチアなどの感染、犬種の個性によるものなど多岐にわたります。外耳炎の原因や重症度、検査の結果などをふまえて、耳洗浄、点耳薬、のみぐすり、場合によっては外科手術を駆使して治療にあたります。
よくみられる一般的な外耳炎では、点耳薬を使って治療を進めていくことがほとんどです。使用する点耳薬もいろいろで、自宅で点耳するもの、病院で点耳するものなどあります。そんな中、昨年少し変わったタイプの点耳薬が発売されました。
イズオティック®という点耳薬をご存知でしょうか? http://www.virbac.jp/product/dermalcare/easotic.html#movie
大半の飼い主様は知らないかもしれません。薬液の入ったボトルにノズルがついており、自宅で5日間点耳してもらって治療終了、という点耳薬です。この点耳薬が外耳炎に対してどのくらい有効なのか?、というのを調べるのが今回の目的です。
目的は割と単純なんですが、外耳炎って意外と評価が難しかったりするので、評価方法をどうするかというあたりも発表に取り入れました。
詳しい内容は割愛しますが、今回は「けっこう効きそう」という結論を出しました。
自宅でも点耳しやすかったり、しっかりとした量が注入できることがその理由だと考えています。
ちょっと結論をぼやかしていますが、これには理由があります。
今回の自分の研究もそうですが、ほとんどの研究には「落とし穴」や「制限」があります。
「治療薬以外の条件によって、良い結果につながった可能性はないか?」
「別の現場で使用したときに、違う結果になる可能性はないか?」
など、質疑応答の際にディスカッションしていきます。
幸か不幸か、今回の発表ではあまり突っ込んだ質問はされず、しどろもどろになることもありませんでした(たぶん)。
話がずれますが、
最近はテレビやネットニュースなどで「こんなすごい論文が出ました!これで病気が治ります!」みたいなことを言ってしまっていることがありますが、あの手のニュースは少し距離をおいて見たほうが良いかもしれません。論文の解釈は難しく、獣医の中でも違った見方になることもあります。そのために学術雑誌というのがあって・・・と話はだいぶずれてしまうので、その話はまた別の機会に。
閑話休題。
今回は外耳炎の新しい治療薬に関して発表をさせてもらいました。
新しい薬ももちろん長所と短所があります。これまでの薬と比べてどういうところが良いのか、どういった場合に使える薬なのか、をきちんと把握することがとても重要になります。発表をまとめていく中で、外耳炎に関する知識が整理され、治療薬に関する特徴を自分なりに掴むことができました。自分の中の知識の整理ができることも、発表をすることで得られるメリットのひとつかもしれません。
実はこうした研究は学会で発表しただけで終わり、ではありません。
今回の発表を論文にまとめて、雑誌に投稿し、掲載され、世界中の人に見てもらうことが一応のゴールになります。日々の仕事にかまけて論文化を怠っている自分ですが、これを機に頑張ろうと思いました。
「日本獣医皮膚科学会第22回学術大会・総会」は、国内の皮膚科に携わる獣医師の中でも最も大きな集まりで、1年に1回、毎年3月に行われています。皮膚科に興味のある獣医師が集まって、講演を聞いたり発表したりしながら知識を深めていく、という集まりですね。海外の有名な先生や医師の先生を招いて講演を聴けるという貴重な機会になっています。
動物病院に行くとたまに、
「◯月◯日は学会のため、臨時休診となります」
みたいな張り紙がありますよね。
ガッカイガッカイっていうけど、実際何してんの? 遊んでんじゃないの?
というご意見もあろうかと思いますので、実際どんなことをしているのか、時系列を追いながら書いてみようと思います。